はだかの王子さま
 





 そして、結局。

 一日速い、移動に準備が間に合わなかったのか。

 ドレスの裏地もバレて計画が狂ったのかもしれない。

 ウェディングドレスの着付けに、星羅も、賢介も、美有希も現れないまま時間は過ぎた。

 真夜中少し前には、人工島キングダムリゾートを一周する。

 奇妙なパレードが始まる時間になると早々に、王さまは現れた。

 大勢の取り巻きを連れて。

 星羅は、白地に金の衣装だったけれど、王さまは、金糸の多い下品な衣装だった。

 王さまも、星羅も同じ顔をしているのに、取り巻きが、二人を間違えないのは、服装と持ち物のせいか……な?

 そう、ぼんやり思っているうちに。

 部屋に入ってからじーっとわたしを見つめていた王さまは、ため息をついた。

『……おお、なんと美しい……』

 そう?

 わたし自身は、あんまりそう思えないけれど。

 着付け用の丸イスにも座っていることができず。

 長いドレスの裾(すそ)を引いたまま、高価そうな猫足のソファの肘の部分に、カラダのほとんどを預けるように座っていたんだもん。

 セットされたばかりの時はキレイだった髪型も、崩れぎみだし。

 真っ白な衣装を汚したくないって言い張り、お化粧を断固拒否した結果。

 わたしの顔色は、かなり悪い……はずだった。

 それでも。

 迎えに来た王さまは『美しい』と感心したようにつぶやくと。

 ずかずかと歩みより、わたしを軽々と抱き上げた。

『軽い……まるで、羽のようだ……』

『いや……離して!!』

 王さまが、わたしに触れているところが。

 じんわりあったまってくる体温が……気持ち悪い。

 それがとてもイヤで、イヤで……っ!

 裾の長いドレスにもかかわらず、じたばた足を蹴りだして逃げようとしたら、王さまにぎゅっと抱きしめられた。

『……二度と離さない。
 そなたは、我が腕の中で生きよ、一生、な』

 
 それがイヤなんだってば!!!


 冗談じゃないわ、と。

 更に逃げ出す力を込めて、ぎゅうぎゅうと王さまの胸を押し、そっぽを向けば。

 王さまは、わたしのうなじに、唇をつけた。

『ひっ……』

 ぞわわわわわっと気持ち悪さを連れて上がってくる鳥肌に、思わず、わたしの王さまを押しのける手が止まる。
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