はだかの王子さま

 月光が、薄い白金の布のように辺りを照らす夜だった。

 風が、雲を様々な形に変え。

 その隙間から、色とりどりの星が、星座を描いてわたしを見ている気がする。

 ……キレイな、キレイな星羅の髪に包まれているような。

 そんな素敵な夜だったのに。

 わたしの隣では、本当はくすんだ茶色の髪を持つ王さまが。

 偽者の星羅の顔をして、何も知らないお客さんたちの声援に答えて笑ってた。

 そして、とうとう。

 人工島、キングダム・リゾートを一周し。

 フェアリーランドの正門を、真正面に見る通りに出たとき。

 王さまは前を指差し、わたしに向かって叫んだ。

『見ろ! 扉だ!
 我がビッグワールドと、この世界をつなぐ大扉が地上に出るぞ!』

 そう。

 それは、普段。

 白薔薇宮殿の地下迷宮の奥にあるっていう、不思議な扉だった。

 十年前。

 お父さんと魔剣0が、世界の壁を切り裂き。

 以来。

 今まで、ずっと守って来た扉だった。

 それが、今。

 フェアリーランドの中、お客さんがチケットを買って、一番最初に通る広場から伸びる真ん中の通路を横切り、地面からせり上がるように出てきた。

 妖精たちの出す真昼のような、明るい光に包まれて、見えるその勇姿は。



 大きい!!



 フェアリーランドの象徴。

 背の高い塔が四本もある白薔薇宮殿が、すっぽり入っておつりが来るような、巨大な両開きの扉だ。

 サイズと形はぜんぜん違うけど、アニメに出てくる未来の猫型ロボットが愛用しているヤツみたいに、扉とその枠だけが地下から出て来て。

 フェアリーランドに五本あるメインストリートのうち、真正面の一本を丸々塞いでいるところを見ると、なるほど。

 普通の人間サイズぐらいなら、全く問題ないけれど。

 本性をさらしたソドニみたいなでっかい竜や、王さまのお土産。

 台の上に乗せたヘリコプターみたいな大荷物は、広場でいきなり曲がって扉の中に入るのは、難しすぎる。

 だから、こんな。

 フェアリーランドを飛び出して、キングダムリゾートを一周する、真夜中のパレードをするんだ。

 そして、毎年。

 この大扉が出現している日が、フェアリーランドの休園日になっている理由も一目で判った。
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