はだかの王子さま
『相手は、一緒に暮らしてたというだけの、ただの他人。
 そなたには、関係なかろうに』

『でも!』

 他人、っていう言葉が妙に引っかかり。

 なんだか、ココロがつき刺さる感じがするけれど。

 頑張って言葉を続けようとすれば、王さまは、ひらひらと手を振った。

『ま、やってしまったことを責めても、せん無きもの。
 ここで逃亡を図ったのは噴飯モノだが、門番と当主の座を娘に譲り、罪を半分償っている。
 それに、明日の対策もできておることだし、今は、とりあえず。
 そなたに免じて許してやってもいい』

 言って、王さまは、広場の正面に立ちふさがる扉を指差して言った。

『明日のフェアリーランド開園時間中の門の使用は禁止にする。
 ビッグワールドにとって、ここは、罪人の島だからな。
 濃いグラウェにも辟易して、全うな人間はまず、やってこない。
 ビッグワールド側には、兵を置き。
 こちら側の対策としては、門の外側に、すくりーんとやらを張って、一日中適当な映像を流しておく所存だ。
 こちら側の人間は、実に行儀がいい。
 目の前にあるのが、ただ巨大なだけの映画鑑賞用具だと思ったら。
 周囲に水を張った堀を作り、その外側に『立ち入り禁止』の柵(さく)を設けるだけで、まず扉に近づく者は、おらぬだろう』

『柵はともかく、今から堀をつくるの!?』

 地下から出現した扉は、とんでもなく大きい。

 夜明けまで、穴を掘って、水を注いで、周りを整えて、なんてできるわけがない。

 目を見開くわたしに、王さまは『なに、全ては幻影よ』とカラカラと笑って、馬車から立ち上がった。

『どれ、そろそろ今日と、明日をつなぐ真夜中の時刻だ。
 まずは、件(くだん)の扉を開かなくては、話にならぬ。
 楽しい仕事ではないが、始めねば、終われぬからな』

 そういうと、王さまは、ひらり、と案外身軽に馬車から飛び降りた。

 すると。

 近くで待機してた侍従さんたちが、ばらばらっと駆け寄り、王さまに裾の長いマントを着せ、手にマジシャンのステッキみたいな棒を握らせる。

 あっという間に、何かの儀式っぽい格好になった王さまは、わたしに向かって手を振った。

 そして、大勢の付き人を従え。

 いつの間にか敷かれていた、赤いじゅうたんの上をすたすたと扉の方に歩いて行ったんだ。
< 358 / 440 >

この作品をシェア

pagetop