はだかの王子さま
『おのれ!
 ゼギアスフェルの仕業だな!!』

 王さまが怒鳴ったその時だった。

 燃える扉をくぐり抜けて、星羅がビッグワールド側に来た。

 熱くないのか。

 扉板だけでなく、枠にまで火が回り、燃え上がる巨大な扉を平然とくぐり抜けてくる。

 月光の髪は、爆炎が巻き起こす風になびき、白地に金の衣装は、火に照り映えた。

 その顔は、ぞくり、とするほど美しく、王に穿たれた左手は赤く染まっている。

 細く流れる赤い血が糸を引き流れるのは、まるで一枚の絵を見ているようだった。

 そして、わたしと目があった瞬間も星羅はこちらに向かって走る。

 叫んだ。

「真衣!」

 さっき、お父さんがしたのと同じくらい、星羅もまた、高く跳躍(ちょうやく)する。

 その速さに、動転したのか、王さまは、半分裏返った声で指示を出した。

『我がペガサス騎士団よ!
 半分は、大扉の消火に当たれ!
 残りも更に半分に分ける!
 一方は、フルメタル・ファングの追尾!
 あとは、我について、ゼギアスフェルの捕縛を手伝……』

 王さま、遅い!

 全部のセリフを終える前に、パレードを蹴散らしこちらに向かって突進して来た星羅が、馬車についた。

 そして、改めて、跳躍する。

 ひゅっ……!

 星羅のカラダは風を巻き、おとぎの国の屋根なし馬車のふちに飛び乗ったかと思うと、腰に吊った剣をいつでも抜けるように身構えた。

 そう、それは、テレビの時代劇で見た、お侍さんの居合い抜きってヤツの構えみたいだ。

 実際、剣は抜いていないけれど。

 もう既に、王さまの首に刃(やいば)を突きつけているくらいの緊張感があった。

 そんな、ぴん、と張った空気の中、王さまが低く、声を出した。

『そなたは、我を殺して、王に成り代わるつもりだな!?
 しかし、ビッグワールドが欲しいなら、相当な愚か者だぞ!
 大扉は本来、異世界への通り道ではない!!
 万能エネルギー、グラウェの採集口だぞ!
 エネルギー不足で喘いでいる今、その扉を壊してみろ!
 暴動が起こるぞ!!!
 それに、こんな大きな扉板と枠を焼き壊してしまえば、世界同士の隙間が完全に閉じることもない!
 異世界の壁を不安定にしたまま放置して、人民がついてくると思うのか!?』
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