はだかの王子さま
 そんな、王さまの叫び声に、星羅も静かに声を出す。

『私は、ビッグワールドなどいらないし、殺したいと思うほどの恨みもない。
 ……我が腹違いの兄上よ。
 今の大扉の開門も、本来ならば、あなた自身が手を傷つける必要はなかった。
 門番交代で不足していた、古き王族の末裔(まつえい)フルメタル・ファングの分の血は。
 古きも、新しきも含め、王族の血の流れていない新門番のフルメタル・ローザから瀕死寸前まで絞りとるか。
 私の傷を二倍にすればそれで、良かったのに。
 王よ。
 あなたの言動は、いつも気まぐれで、わがまま。
 しかも、かなりの見栄っぱりだが……
 ……本当は、不器用に優しい。
 そんな方だ』

『ふん』

『私の名は『セイラムド・フォン・ゼギアスフェル(世界を滅ぼす覇王の剣)』だ。
 ファングの魔剣0が言うことには、どうやら私は、本物の覇王の剣らしい。
 ……けれども。
 私は、本当に覇王が復活するまで、ビッグワールドを統べるあなたの剣で良かったのに』

 王が、ビッグワールドで輝くために。

 暗殺も、その他の汚い仕事も。

 扉の贄でさえ、黙って務めるつもりだったと、星羅は鋭くささやいた。

『だが、しかし。
 あなたが真衣を……私のヴェリネルラをさらって行くと言うのなら。
 私は、あなたを殺して王に成り代わる』

 星羅は今にも刀を抜きかねない勢いで、低く身を縮めた。

 そんな彼に、王さまは笑う。

『そなたが、我をどう見ようが、勝手だがのぅ。
 我は、今まで通り、欲しいものを手に入れ、ビッグワールドの頂点に立ち続けるのみだ。
 このヴェリネルラは、美しいだけではない。
 性根も気に入った。
 そなたにはやらぬぞ、ゼギアスフェル』

 言って、王さまは、馬車の中で立ち上がった。

『しかも、そなたが本物の覇王の剣だと申すのか?
 王弟(おうてい)とは言え、そんな大それた身分を信じるなど、片腹痛いわ!
 ファングの魔剣は、性悪(しようわる)だと、もっぱらの噂だ。
 そなたも魔剣に騙されているのではないか?
 ……それに』

 王さまは、言葉を続けて、にやりと笑った。
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