はだかの王子さま
 しかも大きな竜が不用意に動くと、他の関係ないモノたちも踏み潰しそうだった。

 手間取る竜を横目で見て、星羅は叫んだ。

『遅い!』

 彼は、更に足を一歩踏み込んだ。

 そしてまた、もう一度。

 腰に吊った剣の柄に手がかかり……って!

 ち、ちょっと待った!

 今度は、王さま、自分の身を守る剣無いよ!

 このままほっといたら、王さま!

 さっきの剣みたいに、真っ二つだ!

 王さまのことは、大っ嫌いだったけれど、自然とカラダが動いた。

 星羅を、暗殺者になんてしちゃ、だめだ!

「星羅!」

 わたしは、力の限りに叫ぶと、震える膝を励まして、星羅と王さまの間に、割って入った。

 ……ら、良かったんだけど。

 結局。

 着慣れないドレスと、弱ったカラダでうまく立てずに、力一杯バランスを崩した。

 馬車みたいな、安定性の悪い狭い場所で急に立ち上がったのも悪かった。

 わたしは、ぐらり、とよろめいたかと思うと、そのまま、馬車から放り出された。

「真衣!」

 星羅は、一声叫ぶと、剣を抜く構えをすぐやめて馬車から飛び降りる。

 そして馬車から落ちてゆくわたしを、空中で抱きとめた。

「なんて無茶なことを!」

 王さまの手から逃れるために、着地した馬車のすぐ脇から何歩か大きく跳躍して、星羅が叫ぶ。

「タイミングがずれていたら、僕は真衣を斬っていたかもしれない!
 馬車から落ちたって、絶対怪我をするのに……!」

「だっ……だって……!
 星羅が……!
 もう、誰も傷つけて欲しくなくて……」

 それが、たとえ、諸悪の根源の王さまでも……!

 それに傍から聞いていれば、本当は、めちゃくちゃ仲が悪いっていう感じでもないんじゃない!

 こんな感じで、星羅が王さまを殺してしまったら、絶対後から悔やむに違いない。

 とっても安心する、星羅の強い腕に包まれて、思わず涙が出てきた。

 ぐすん、とはなをすすれば、いつもの星羅のにおいに、血が混じってる。

「星羅……手、大丈夫?」

 問題の傷は、わたしを抱きしめてて直接見えないけれど。

 さっきやってた、見るのも怖い、扉の開け方に心配になって聞けば、星羅は頷いた。

「大丈夫だよ。
 これでも王が、手加減してくれたからね」
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