はだかの王子さま

 と思った瞬間。

 わたしたちは、炎の壁を超えた。

 全く熱くはなかったけれど。

 一瞬。

 ぼっ、って言う、何かが燃える音が怖くて目をつむり。

 恐る恐る目を開けば、見慣れたフェアリーランドの広場にいた。

「よ……良かった……!」

 ビッグワールドに連れて行かれた時は、どうなるかと思ったよ~~

 でも、自分の世界に帰って来られたら、一安心よね?

 問題の王さまは、炎の壁の向こうだし……!

 思わず、ホッとため息ついた……けれども。

 実は、安心するには、少しばかり早かった。

 開門直後のパレードで、こちらの世界のヒトにあらざるモノたちがキングダム・リゾートに集結している上。

 真夜中に、盛大な光を放ち、燃え上がる超巨大な扉の火柱が出現したんだもん!

 こっちの世界の消防隊と、警察と、報道陣が、興味を持ったみたい。

 そろそろ午前1時になる真夜中だってのに!


 ババババ……っと大きな音を出してヘリコプターが何機も旋回しはじめたんだ。


 そして。


 わたしには、そんなことよりもっと、ゆゆしき問題が起きていた。

「せ……星羅!
 わたし、ドレス!!
 服、着てない……っ!」


 そう!

 扉をくぐる前には、確かに、星羅が作ってくれたウェディングドレスを着ていたはずなのに!

 炎の壁を超えた、今!

 わたしは、星羅からもらったキャミソール一枚の姿で、星羅の腕に抱きかかえられ。

 燃え上がる扉の前で、星羅と一緒に両方の世界のヒトたちの注目を浴びていた。



 も~~いや~~!



 早くどっかに隠れたい……!



 じたばたしているわたしに、星羅が屈託なく笑う。

「ん? ドレス?
 あれは、壁を通る時、燃やしちゃった」

「も……燃やしたぁ!?」

 びっくりしてるわたしに、星羅は『うん』って、上機嫌に頷いた。

「だって、あれ。
 王のためのウェディング・ドレスな上、裏地を取られてボロボロだったじゃない。
 気に食わないから、キレイさっぱり、燃やしてしまいました」

「……」

 ……あの、炎の壁を越える時の『ぼっ』っていう怖い音!

 王さまのウェディング・ドレスが燃え上がる音だったんだ……!

 呆然としているわたしに、星羅がさらに言葉を続けた。
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