はだかの王子さま
 最悪な予想に心が押しつぶされそうになる。

 黙ったわたしを、星羅はそっと抱きしめた。

「きっと、大丈夫。
 フルメタル・ファングのことだから、一番良い方法を考えているよ。
 それに、そんなに深刻じゃないかもしれないし。
 今は、ちまちま策を弄(ろう)して一人で動いてるけれど。
 やがて『面倒くさい』なんて。
 御堂ごと、覇王の遺体を真っ二つに斬った挙げ句。
 コピーした僕の力で全部を燃やし尽くして『万事解決、もう覇王は目覚めない』とか言い出すかもしれないし」

「……まさか、さすがに……それはないと……」

 あまりに大ざっぱ過ぎる話に目を丸くすれば。

 星羅は、にこっと微笑んだ。

「いやいや、判らないよ。
 それに、賢介を置いて行った本当の理由は『あれ』かもしれないし、ね」

 言って、星羅が見た視線の先には。

 今まさに開園する寸前の、フェアリーランドの正面門(ゲート)に向かい。

 わたしたちのいる部屋の真下。

 白薔薇宮殿北塔から白く、翼の生えた馬、ペガサスに乗って、『王子』が『お姫様』をつれて飛びたつのが見えた。

 なんだか、真昼の夢をみてるみたいで凄く、キレイだ。

「……もしかして、あの、王子さまとお姫様……」

「うん。
 スパイダーとローザ……賢介とフルメタル家新当主が、今日の開園宣言に行くんだ。
 今年は、フルメタル・ファングが『セイラ王子のパーティー』とかって宣伝したろう?
 なのに、ファングは、最初(ハナ)っから宣伝だけで自分がホスト役をする気がなかったみたい。
 最初は、僕を出す予定だったみたいだけど、僕があまり人前に出るのは、得意じゃないから。
 ファングが、スパイダーとローザに頼んだんだ」

 星羅は、そう言うと、空飛ぶ馬に乗る賢介たち二人を見送り、微笑んだ。

「……でも、もし、来年があるのなら……
 今度は、僕ら二人でフェアリーランドのお客様に挨拶をしてみようか?
 ……って、来年はダメか」

「え?」

 わたしが顔を上げると、星羅が嬉しそうに笑う顔が間近にあった。

「だって、来年の今頃は。
 真衣のお腹に僕の子どもがいるか。
 生まれたばかりの赤ちゃんを、腕に抱いているかもしれないんだから」
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