はだかの王子さま
 その時。

 確かに、地面が、揺れた。

 あり得ないほど大きな音に、フェアリーランドのお客さんたちの間に悲鳴が聞こえ。

 それを、フェアリーランドのスタッフが慰めて回る。

 雷が、すぐ近くに落ちた!?

 どこに!?

 ……って、見まわさないでも判る、煙の上がった方向は。

 人工島キングダム・リゾートと日本の本土を結ぶ、唯一の橋の方だった。

 そんなことをしたら!

 お客さんたち、キングダムリゾートから、外に出られないじゃない!

 ……まさか!

 まさか。

 覇王の剣は、わたしたちを、キングダムリゾートから、外に出さない気なんじゃ……!

 そして、剣自身は、ビッグワールドの王さまに惹(ひ)かれるように、白薔薇宮殿に向かって歩いて来る……!



 ずしん……ずしん……


 巨大な、蒼のセイラが一歩足を踏み出すたびに。地面は、地震が起きたかのように、揺れた。

 そしてまた、とんでもないサイズの蒼の星羅の右手が、動く。

 うぁ……!

 これは、もう一度、あのでっかい雷が、来るんじゃない!?

 思わず、ひっ、と首をすくめた時だった。

『剣よ! この世界に、そなたの主は不在である!
 即刻、剣に戻って、ビッグワールドに帰れ!
 フルメタル・ファング!
 巨人の姿で、身動きをするな!
 雷を落とすな……!
 これ以上やると、本当に死傷者が出るぞ!!』

 聞きなれた麗しい声が、巨人の前でりん、と響く。

 その声の方向を見れば、星羅が空を飛んでいた。

 どうやら、空に浮くぐらいまでなら、回復したらしい。

 シャドゥ家次期当主、黒アゲハのハンドに左腕を掴まれた、その状態をみて、王さまが呆れたように笑った。

『なんだ。
 偽物のゼギアスフェルは。本物の覇王の剣の前で、直談判か?
 高い所が苦手なくせに、よくもやる。
 ……が、無駄無駄、無駄。
 剣には、既に個人的な意識はないだろうよ。
 あれの欲求は、ただ覇王の側にあり、従うだけ。
 真の覇王の声しか。聞こえぬ。
 覇王の姿しか、その目に映らぬ』

 つまり、この『我』の言うことしか聞かぬのだって、王さまが、ふんぞり返り。

 『見よ』と王さまが指差した先には。

 巨大な蒼のセイラが、顔の周りをふらふらと飛び回る星羅とハンドを、うるさそうに手で追っている光景があった。

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