はだかの王子さま
 まるで虫でも追うように振っていた巨大な手が、二人を容赦なく襲い……とうとう!

 二人は大きな手に跳ね飛ばされた。

 ごすっ、ごすっ

 そんな鈍い音がして、それぞれ、蜘蛛の巣状に凹むほど、二人のカラダが石の壁に打ち付けられたんだ。

 わたしたちの居る塔の右側、東塔の壁だ!!

「きゃーーーっ!!
 星羅! ハンドさんっ!」

「大丈夫……真衣……君は、無事か……!?」

 叫ぶわたしに、星羅も叫び返し、がれきと化した壁から抜け出ようともがき、ハンドはそのまま力なく手を振った。

 よ、良かった……二人とも、無事みたい……!

 ほっと、胸をなでおろすわたしのそばで、狼の王が笑った。

『偽物の剣に、醜い虫風情が、身の程知らずにも剣の前に立とうとするから、そんな無様な姿をさらすのだ』

 そう、王さまは嘲(あざけ)ると、まるっきり狼だった姿をヒトに近い獣に変え、二本足で立ち。

 こちらに向かって歩いて来る巨人に向かって手を伸ばした。

『さあ、我の偉大な剣よ!
 我の前にひざまずき、忠誠を誓え!
 そして、我を、全世界に君臨する『覇王』として、目覚めさせるのだ……!』


 オオオオオ……

 ハーーオーーウーーゥゥゥ!!


 まるで。

 王さまの声に、従うように、巨人は叫んだ。

 ずしずしと歩いていた蒼い髪の巨人が、ゆっくりと身をかがめて、片膝をつく。

 そして、北塔の窓辺に立つ王さまにうやうやしく、手を伸ばすと。

 騎士から忠誠のキスを手の甲に貰うときみたいに、傲慢に伸ばされた右手を器用に握り……そのまま……


 ……ぺいっと、虫でも払うように王さまを放り投げた。


『なんだとぅぅぅぅぅぅぅ~~~!』

 巨人に、空中に投げ飛ばされ。

 星羅や、ハンドたちみたいに、今度は左側の西の塔にカラダを叩きつけられた王さまが、叫ぶ。

『我は覇王!
 そなたの主ぞ!! なのに、なぜ、こんな粗末な扱いをするのだ!!』

 ぎゃあ、ぎゃあと元気に騒いでいる所を見ると、王さまも無事みたい。

 ため息をついたわたしのベッドの上に乗り、ウサギ耳のゴブリンが叫んだ。

『だかラ!
 お前なんて『覇王』じゃないって言ったロ!
 本当の、覇王ハ……!』
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