はだかの王子さま
そして、わたしが見つめる世界が、二重に映り、ぶれた、と思ったとき。
わたしの頭の中に……わたしの知らない誰かが入って来たみたいだった。
今まで体験したことのない記憶が、滑り込んで来たんだ。
『……なに……これ……』
呆然とつぶやくわたしの声に、返ってくるのは、わたしの名前を必死に呼ぶ星羅の声ばかりで。
知りたい情報は、なかったけれど。
なにか、怖い、大きな力に流され無いように、必死にもがきながら。
きっと、これが『覇王の力』なんだってうすぼんやり思った。
剣を使ったり、相手を殴ったりするような、直接戦う力じゃなく。
魔法のように火や、風みたいに、自然にあるものを増殖して使う力じゃない。
もっと、強力で、圧倒的で、それを感じたら、決して誰も抗えないもの。
それは。
愛。
『ああ……我が愛しき、ヴェリネルラよ。
例え、そなたが覇王でも。
我は、必ずそなたを手に入れる……!』
そう、西の塔から狂おしく叫んだのは、王さまだ。
「……すまない、真衣……さま。
なぜか、急に……おかしな気分に……
……あなたのことを、愛してる。
……あなたの側を離れては……二度と飛べない……戦えない」
って、ハンドまで!
蒼い巨人のそばから離れ、ふらふらと、こっちに向かって飛んでくる。
視線を近くにやれば、本性をさらしたゴブリン達が、うるうると、何だか熱っぽい目てわたしを見てた。
その他にも、夜の闇にまぎれて、正確な数なんて判らなかったけれども。
今、フェアリーランドにいるひと全部が、この白薔薇宮殿の壊れた北塔に向かって歩いてきているって気配がする。
ここにいる人がみな、わたしに……ううん。
目覚めかけた『覇王』に恋して心を奪われ……狂ってしまったんだ。
わたし自身は何もしていないのに『覇王』の出す何かに惹かれヒトが来る。
空で。
塔の片隅で。
あるいは、地上で。
わたしの知らない誰かが、次々に、熱く燃える心の内を叫び出した。
そしてすぐ、皆一斉に、わたしを自分だけのものにしようと、争いを始めたんだ。