はだかの王子さま
 わたしに少しでも近付こうと、北塔に張り付き、登りだした獣の王さまを、ハンドが攻撃したのを手始めに。

 ゲストルームの残骸では、今まで、仲が良かったゴブリン同士が、取っ組み合いの喧嘩を始め。

 地上では、悪口の言い合いと、掴みあいを始めた人もいる。

 そして。

 急に狂った感じはしなかったけれども。

 蒼い髪の巨人セイラが、金髪の星羅からわたしを取り返そうと、無言の攻防をし始め……わたし。

 がれきの間を跳び、走り回る愛しい金髪の星羅の胸に抱かれながら、内なる覇王の記憶を眺めてた。

 そう、わたしが覇王に目覚めれば、世界はこんな風に、滅びてく。

 ビッグワールドの王さまと、星羅でさえ、わたしが、居さえしなければ良かったのに。

 表の華やかな部分を王さまが担当し、闇の部分を星羅が引き受けて、特に争いは、なかったはずだった。

 そんなわたしの記憶と『覇王』の記憶が、混じってゆく。

 むかし、むかし。

 どこかの国に『傾国(けいこく)』って呼ばれたお姫様がいた。

 その、あまりの美しさに『傾国』の国の王さまは、自分の国の政務が手につかず。

 結局『傾国』を欲しがった別の王さまに、その国は、滅ぼされ。

 次に新しく連れて来られた国でも同じようなコトが起こって惨劇が、何度も何度も繰り返された。

『傾国』の領土は自ら手を下さないまま、『傾国』を愛する者たちの武力を持って、その領土は瞬く間に広がり。

 やがて何時しか世界を滅ぼしかねない『傾国』は『覇王』と呼ばれる者となる。

 そんな『覇王』に危機感を抱いた者は少なくなく。

『覇王』を殺しに何人もの暗殺者が送り込まれたが、ことごとくが、主を裏切り、覇王に寝返った。

 その数ある暗殺者の中で、一番強く。

『炎』の魔法を操るのが得意な剣士が、初代の『ゼギアスフェル』。

 彼はもとから、強力な剣の性(さが)を持っていたけれど。

 実は、たった一人で、ビッグワールドを造るほどの力は無かったんだ。

 そのかわり、特殊な体質を持ち、薄いグラウェの中では生きられない覇王のために頑張った。
< 400 / 440 >

この作品をシェア

pagetop