はだかの王子さま
 その言葉が頼もしく。

 強く抱きしめる腕が暖かった。

『「嬉しい」』

 きゅん、と震えるココロが。

 わたし自身と、わたしのココロの中にいるもう一人と重なった。

『ゼギアスフェルは、いつだって、そう。
 妾(わらわ)を守ってくれるのじゃ』

 多分、コレ……昔、覇王、って呼ばれたコの意識だ……

『わたし』……『内藤真衣』のココロに混じり込むように、押さえつけるように。

 とても強いココロが割り込んでくる。

 それは、まるで。嵐の中の風ように、激しく。

 水のように、冷たく澄んだ、ココロだった。

『妾はグラウェの薄い外で、生きては、ゆけぬ。
 妾の世界は、いつだって寝屋(ねや)の中にしか無くて。
 物心ついた時から、毎夜ずっと。
 独り寝などしたことないほど誰かに愛されていたのじゃ。
 気持ちの良いことなど、少ししかなく。
 後は、たいてい怖くて、痛くて、疲れて……恥ずかしいだけで。
 どんなに泣き叫んでも、誰も助けなど来ず。
 妾の命を狙うモノさえ多かったのじゃ。
 ……なのに』

『生きる』意味さえ判らず。

『幸せ』を感じたこともなく。

 他人を『愛』に狂わせておきながら、自分自身は『愛』を知らずに。

 ただ、ただ寝屋(ここ)が地獄だとも知らぬまま。

 覇王と呼ばれた少女は、闇の中を這いずっていた。



 ……ゼギアスフェルに会うまでは。



『初めて出会った、ゼギアスフェルは、まるで、蒼く輝く月光のようだったよ』

 そう言って、覇王はわたしのココロの内で、明るく笑う。

 本当は、覇王を狙う暗殺者だったのに。

 この世に何も切れぬモノはなく、望まぬ運命(さだめ)でさえも斬ってみせると豪語する、剣の性(さが)持つ青年は。

 覇王の代わりに、その周りに巣くう闇をあっという間に切って捨てると。

 覇王を一人の少女に変え、いずれ、忌まわしい寝屋から『外』に連れだしてやると約束してくれたのだ。

 陽の光を浴びて、走り回れる草原を。

 涼しい風に吹かれ優しい葉ずれの音が響く、林や森を。

 そして。

 季節ごと、天候ごとに、様々にその形と色を変える、夜の支配者『月』の光を。

 そんなモノを少女にやろうと約束した……
< 402 / 440 >

この作品をシェア

pagetop