はだかの王子さま
『その約束を違えずに、ゼギアスフェルは、妾に『世界』を贈ってくれた』

 その世界に『神』はなく。

 大地を引き剥がし、ありったけのグラウェを詰めて作ったその世界は、草木も、風も、太陽や月の光さえ。

 ヒトの作った偽物の世界だったけれど。

 全てが全部、夢のようにキレイで。

 何より寝屋から出られた妾は、とても嬉しかったのじゃ、と、少女は声を震わせた。

 そんな、覇王の記憶を受け入れながら、わたしは、途切れそうな意識の中で『ああ、そうか』って思ってた。


 ビッグワールドって、ゼギアスフェルが、覇王のために作った、アミューズメントパークだったんだ、と。


 傷だらけの覇王を少女に変え、その心を癒やすフェアリーランドみたいな夢の国。

 それが、少女が死してなお、主を失ったまま、長い、長い時間を経て、存続してた。

 その存在する意味を変え。

 覇王が生きて行くために必要だった、大切な『グラウェ』の濃度を変えて。





『……ゼギアスフェル?
 愛しいそなたは、今、どこに?』

 長い記憶を、わたしに植え付け。

 わたしのカラダのほとんどを乗っ取ろうとしている覇王が、星羅の腕を嫌がるように、身動きをした。

「……真衣!?
 今は、まだ動いちゃダメだよ……!
 ここは、白薔薇宮殿の北塔、外壁だ。地面に着くまで、あともう少し、ある!」

 落ちそうになった、わたしのカラダを抱えなおし。

 苦手な高所での移動を続けている星羅が、必死に叫ぶ。

 そんな星羅の声を聞いてないのか、覇王は、わたしの口で呟いた。

『金の髪のゼギアスフェル。
 そなたは妾の愛しいヒトじゃないわ。
 だって、何かが、半分も足りないもの』

『……君は真衣じゃないね?
 僕の真衣はどこ!?』

 ぎょっとして叫び、手近なバルコニーに降りた星羅を無視して、覇王は、首を伸ばして、上を見上げた。

『大きな蒼い、ゼギアスフェル。
 そなたは、ほとんど妾のあのひとに近いけれど……違う。
 そなたの魂は、確かに妾のゼギアスフェルなのに、その身を覆うカラダが違う。
 喋り方も態度も偽物の宿主の意識が混り、違ってしまったようだ。
 本物のそなたが偽物の服を着て『覇王の剣(セイラムド・フォン・ゼギアスフェル)』を名乗ってみえる。
 本物のゼギアスフェルは、どこ?
 愛しいあの人がいない世界なら、妾は、ここに存在し(い)たくない……!』
 
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