はだかの王子さま
「……星羅ぁ……」

 星羅の必死な声に押されて、わたし、勇気、出た。

 お父さんに。

 フルメタル・ファングに声をかけるため。

 わたしは、できうる限り、蒼い巨人を真っ正面から、見つめたんだ。




 覇王は、この時代、この世界に何を望むんだろうか?


 やっぱり、世界の終わりを願うのかな?


 ……それとも。
 



 わたしは、余計な考えを振り払うと、今、出る声一杯に叫んだ。

「お父さん聞こえる……!?
 わたしよ! 真衣よ!!
 お願い! こんな、剣の姿なんてやめて、もとの姿に戻って……!!!」

『……やめろ! そんなことを願うんじゃない……!』

 蒼の巨人は、何かに打たれたように、ぶるっと身を震わせ、ひざまづいた姿勢から、腰を浮かせた。

 けれども、わたしは、そんなの関係なく、声の限りを出した。

「お父さん!!」

『覇王よ!
 あなたの宿主の声を塞げ……!
 でないと……我の中の何かが目覚める……砕けてしまう……!
 この時代の世界全部をあなたに、捧げられなくなってしまう!
 あなたが、この世に君臨する、唯一無二の偉大な覇王でなくなってしまう……!』

 そんな蒼の巨人の叫びに、わたしの手と腕の感覚を完全にのっとった覇王が、蒼の巨人に向かって両手を差し伸べた。

 とたんに。

 わたしの唯一動いた口が凍りつき、声が、出せなくなった。

 とうとう、声まで覇王に奪われてしまったんだ……!


 もう、だめだ。


 わたしの声。


 お父さんには届かない。


 世界は、みんな覇王のものになる。


 そうじゃなかったら、この世のすべての生き物が覇王を取り合って喧嘩して。


 世界は滅んでしまうんだ。


 もう、どう頑張ってもわたしのカラダは動かず。


 自分の力では、声も出せず。


 くやしくて、悲しくて。


 涙がこぼれそうになったとき。


 覇王は、わたしから最後に奪った声を使って言った。

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