はだかの王子さま
『ゼギアスフェルよ……そんな、偽物のカラダなど、砕けてしまえばいいのじゃ』

『なんと申される……覇王よ!!!』

 巨人の絶叫に、覇王は、優しいほほ笑みの形に唇を曲げた。

『この時代は、妾の生きた時代ではない。
 しかも、大切な誰かに、大事に愛されたあとが、たった一つあるだけの、こんなキレイなカラダは、使えぬよ。
 なにしろ、このカラダの主(あるじ)は、妾ではないのじゃ。
 勝手に使えば、この娘を愛した男に叱られる』

『そんな男!
 我が、一太刀で斬って……』

『恐ろしいことを、言うでないよ。
 愛しいと思う者同士、引き裂かれる姿は、見とうない。
 それに、今、妾の欲しいものはそなたが造ってくれる世界では、ない。
 そして、死して長い歳月の間に朽ち果てた、そなたの遺体でも。
 新しい偽物のカラダでも無いのじゃ』

『……覇王』

 それでは、我に願うものは何もないのか、と。

 我の存在する意味はもうないのか、と。

 肩を落とす蒼い巨人に、覇王は、真面目な顔をして言った。

『いいや、そうでもない。
 愛しいセイラムド・フォン・ゼギアスフェルよ。
 妾は覇王として、その剣に一つ重大なものを願わねば、ならぬのだ。
 そのために妾は蘇ったのだと言って、過言ではない』

『なんだ、それは!』

 叫んで、急に元気になる蒼いセイラに、覇王は笑う。

『そなたの本物の魂を、おくれ』

『……は?』

『妾が生きている時は、独りで寝床に入ったことなど数えるほどしかなかったに。
 死してからは、見よ。
 妾とそなたとは、没した日にちが一月も開いてないというに!
 そなたが、妙な魔法をかけるモノだから死したる魂同士、すれ違い。
 すぐ近くに居ても出会えずに。
 妾はもう、何千年も、石の棺(ねどこ)でたった独りじゃ』

『しかし……それは、死して後も、あなたにお会いしたかったからで』

『ふん。
 そのせいで淋しゅうてかなわなかったわ!
 しかし、ここで本物のそなたの魂を見つけたのじゃ!
 もう逃がさぬぞ。
 これより先、そなたの魂は妾のものじゃ!
 一緒に、御堂に来い。
 石の棺での伽(とぎ)を申しつける。
 妾の魂を抱きしめとけ……永久に』

『覇王!!』
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