はだかの王子さま
 そんな、お父さんの言葉に、美有希は、驚いたみたいだった。

「フルメタル家当主、ならびに門番の座の件については、わたくしのわがままでございます。
 どうぞ、父上にはこのまま、フルメタル家ともども、シャドゥ家を。
 そして、ビッグワールドに続く大扉をお守りしていただきたく……!」

 慌てた美有希の声に、お父さんは笑う。

「ヒトの上に立つ者に二言があっては、ならぬものだ。
 ローザに当主と、門番の座を渡すと誓った以上、もう覆らないし、俺はお前がしっかりフルメタル家を導いていけると信じている。
 ……それに」

 お父さんは言って、わたしを見た。

「本日より、俺の正式な主(あるじ)がビッグワールド王から、真衣……ヴェリネルラに移行した」

 ……え?

「役目を引退した、一介の男、ならともかく。
 優秀な忍びの軍団、シャドゥ家を抱えた、フルメタル家の当主が、現王が生きているにも関わらず、ヴェリネルラを主にしたと公表してみろ。
 ビッグワールドは、二つに割れて戦が起こり……結局真衣は、現代覇王の道へ一直線だ。
 それは、避けたい」

「ち、ちょっと待ってよ!
 誰が、誰の『主』だって!?
『お父さん』は『お父さん』じゃない!
 どうして、わたしなんかの……」

 そりゃあ、覇王は、消える前になにか言ってたけど!

 親を従えるなんて、とんでもない!

 ぶんぶん首を振るわたしに、お父さんが肩をすくめた。

「俺は、輪廻転生を繰り返す、本物の覇王の剣に割り込んだ。
 現代の覇王であるヴェリネルラの声を聞いて、目覚め。
 人間に戻った時点で、俺のカラダと魂の全部は、ヴェリネルラのモノだ」

 ……とは言え。

 俺は、真衣の父親だし。今までだって、真衣と大事な時間を共有してきた以上。

 真衣が『覇王』として公(おおやけ)に、出て行く事がない限り。

 付き合い方を突然変える気は、全くないからな、とお父さんは、胸を張った。

 その時だった。

 衣裳部屋、企画室の、ひときわごちゃごちゃした衣装の山の中から、灰色の影が現れ……低く嗤(わら)った。

『……誰が誰の父親だって?
 我は、あまり日本語が得意ではないからのぅ……それは、何かの聞き間違いか?
 それとも笑えぬ冗談、というヤツか?』

 いかにも可笑しそうに響く、その声は……王さま。

 ビッグワールドの現王が、まるつきり狼な、獣の姿を見せたんだ。
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