はだかの王子さま
 壁を切ってみせる日の朝。

 出がけに、偶然わたしの手が魔剣に触れ、剣に『祝福』って言うヤツ……ううんと、良く切れるおまじないみたいなことをしてしまったらしいことを。

 そして、魔剣の切れ味が覇王の力で、更によくなったことに気がついたひとが、もう一人、いた。

 ……前王、だった。

 前王は、まず王妃に詰め寄った。

 殺したはずの将来覇王になる娘を、一体、どこに隠したのだと。

 王妃は、答えず。

 剣を突き付けられても喋らない王妃ともみ合っているうちに、前王は王妃を切ってしまい……そこへフルメタル・ファング(おとうさん)がやって来たんだ。

 そして、血を流して倒れている王妃を見て、逆上したお父さんは前王を切り捨て。

 更にそのあとやって来た星羅が、宮殿に火をつけた……

 こうして、現王の時代が始まって。

 お父さんの罪をかぶった星羅が、人間の姿を失って、こっちの世界に来る時に。

 わたしの覇王の力を隠すため。

 そして、前王殺害の疑い、追及を逃れるために、お父さんは、星羅を護衛する、との名目で何人かのシャドゥ家のヒトビトとゴブリンニ十匹を引き連れて、こっちの世界にやって来た。

 そうして、こっちの世界で、負の出来事は誰にも知られず。

 お父さんはわたしとの二人きりでの生活を送ってた。

 そして、わたしが大人になった、その時に。

 自分に都合のいい情報だけを教え……わたしを、手に入れるつもりだったのではないか、と王さまは言った。

『だが、一つ、そなたには誤算があった』

 そうお父さんに言って、王さまは、狼の顔をゆがませた。

『それは、こちらの世界へ来るための口実に使った男。
 絶対恋愛対象にはならないと踏んでいた、獣の姿のゼギアスフェルをヴェリネルラが愛してしまったと言うことだ』

 さて、ここからは、推測だがのぅ、と王さまは目を細めた。

『十年もの長き間、動かなかったのに。
『今年』を選んだのは……ゼギアスフェルとヴェリネルラが将来を誓う約束をしたからか?
 それとも。ゼギアスフェルの手に入れた人間の姿が、余りに美しかったので焦ったか?』
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