はだかの王子さま
 けれども。お父さんは、深々とため息をついただけだった。

『ビッグワールドの王が、直々に何を話すのか、と黙って聞いていれば。
 長々しいだけで、つまらなかったな。
 こんなロクでもない話を聞いている今でさえ、地上は大混乱だ。
 大扉の閉門時間も迫っていることだし、時間がない。
 王には、速やかに退場していただく』

 お父さんは、そう言うと、話の間にようやく混乱から立ち直ったらしい自分の魔剣に呼びかけた。

『0、ショート・ソード』

 お父さんの言葉で、白い仔犬ちゃんが、変わる。

 狭い部屋の中でも振りまわしやすそうな、刃渡りの短い剣に変わったのを見て、王さまは慌てて言った。

『つまらん話とは、何事だ!
 本当のことを暴かれて、反論できぬからと言って、ごまかすとは、卑怯ぞ!』

「……フルメタル・ファング」

 星羅も知りたいらしい。

 王さまに続く友の低い声を聞いて、お父さんはもう一度、ため息をついた。

『桜路までも、ってところが心外だな。
 仲違いさせようとする王の策略にのり、お前も、俺の言動を疑うか?』

『君は先々のことまで考えて独り、暗躍することがある。
 そして、そんなときは大抵。
 ビッグワールドでの掟(おきて)を破っても、こっちの世界の法律を犯したとしても。
 僕の良心に照らして『悪いこと』だったためしがなく。
 普段の状況なら、好き勝手動いてても、気にならないんだけどね。
 真衣が絡むのなら別だ。
 ……君の話を聞きたい』

 場合によっては『友』でも許さない、なんて。

 そんな、星羅の声もまた、真剣で。

 お父さんは、ショート・ソードって言うらしい形の魔剣0を王さまにつきつけながら、小さく息をついた。

『ゴブリンたちから話を聞いただけあって、確かに王の話は全部間違い、とは言いがたいものはあるな。
 ……しかし、基本的なことが一つ間違っている』

『それは、なんだ』

『俺は、真衣を……ヴェリネルラを愛してる。
 しかし、それは、お前たちが考えているように、ではない。
 娘のように、愛しているのだ。
 そして、俺が本当に愛している『女』は前王の王妃になってしまった彼女。
 真衣の母親だけだ……今も、昔も変わりなく』
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