はだかの王子さま
『そんな言い逃れを……』

 そう、上げた王さまの声に、お父さんは、眉間に皺を寄せた。

『彼女の代わりなど、誰にもできない。
 例え、娘の真衣であっても、彼女本人ではないのだ。
 真衣は『本物の真衣』なのに!
 王妃の血を『半分しか』引いていない真衣を、彼女の偽物みたいには、愛せない』

 お父さんの言葉に、王さまは『は!』と莫迦にしたように声をあげた。

『口では、なんとでも言えるだろうが、やっていることが、おかしいだろう!
 ヴェリネルラを偽物として本物のように愛せないと言うなら!
 なぜヴェリネルラを守るために、自分の地位を捨て、命を賭ける!?
 一歩間違えば、世界を滅ぼすかもしれないとわかっている者を、庇う!?
 王妃が生きていた頃ならばともかく、今では、何の得も義理もないではないか!
 美しいヴェリネルラの、髪を、素肌を……カラダを。
 熱く燃える恋心を独占する、という見返り以外は、のぅ』

『それは、違うな』

 叫ぶ王さまにお父さんは、静かに目を伏せた。

『愛する彼女の血が『半分も』入っている子どもを突き放せるほど、俺は冷酷ではないからだ』

『は! 何を寝ぼけた、きれいごとを!
 そなたは、これだけの苦労を、何の見返りもなく、無償で行うと?』

 それでは、ただの莫迦か、古ぼけた騎士道精神にに酔ったナルシストだと、嘲笑う王さまに、お父さんは、ため息をついた。

『確かに、最初に王妃に娘の命乞いを受けた時の俺は、莫迦なナルシストだったかもしれない。
 けれども。
 心から愛する女(ひと)の子どもを、五年間。
 ほんの赤ん坊のころから、身近で育てれば……恋とか、欲望とか、その他の損得を超えたところで何かが芽生え、育つことがある』

 他は知らんが、少なくとも俺は、そうだった、とお父さんは言った。

『それが『愛』なのか『絆』と呼ぶのか。
 それとも『父性』とでも言うのか、知らない。
 ただ、俺は、真衣が来て、良かった。
 共に生きて、楽しいことを笑い合い。
 悲しいことがあったら、一緒に泣いて、慰める。
 小さな赤ん坊が、世界のあらゆるものを吸収し、大きく育つ姿に、驚き、喜ぶ。
 そんな生活を全力で守ろう、と思うことは、おかしなことか?』
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