はだかの王子さま
 わたしは、続けて叫んだ。

『あなたが『世界を滅ぼす覇王の(セイラムド・フォン)『盾(ソドニキュラエス)』』だと言うのなら!
 あなたの本当の『主(あるじ)』はわたしでしょう!?
 言うことを聞いて!
 だって、わたしが『覇王』本人なんだからっっ!!!』

『真衣、だめだ!』

 なんて、切羽詰まった星羅の声がすぐ側で聞こえた気がした。

 けれど、わたし、聞かなかった。

 お父さんと、ソドニの争いを止めたくて……!

 一瞬でいいから、覇王の姿になりたい、と願った途端だった。

 わたしのカラダは、強い光に包まれ。

 気がつくと、闇に溶けて消えそうだったわたしの黒いごわごわの髪が、自分で金色に光を放つ、金髪に変り。

 さらさらと微かな音を立てて、わたしの肩に砕け、なびいた。



『『『覇王!!!』』』


 少し遠くの場所で、お父さんとソドニが争いを一時中断して、それぞれあげた声と。

 わたしのすぐそばで、王さまが、嬉しそうに叫んだ声を同時に聞いたかな……と思った途端だった。

 わたし、急に力が抜けて、同時に胸が苦しくなった。

 げほげほと、咳(せき)が止まらない!

 わたしを抱きしめる王さまにすがって、何度も何度も咳の発作を繰り返した。

 苦し……っ……

 息がまともに吸えなくて……!

 激しい咳を繰り返したための、自然現象で溢れて来た涙で視界がかすむ。

 気が遠くなりかけたわたしを、青ざめた王さまが揺すった。

『な……っ!!
 何が起きたと言うのだ!! 気を確かに持て!
 ヴェリネルラ! ヴェリネルラ……!』

『王よ!
 私の真衣をすぐ返せ!
 でないと、息が止まってしまう……!』

 星羅の声だ……!

 嬉しかったけれど、ゆっくり喜んでいる場合じゃなかった。

 変身した途端、まるで、何かが足りなくなったみたいに、息が上手く出来なくなっちゃったんだ……!

 酸素!?

 ううん、違う!

『真衣……いや、覇王にとって、この世界はグラウェの濃度が低すぎるんだ……!!』
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