はだかの王子さま

 ソドニの話では、なろうと思えば、ビッグワールドの王さまにだってなれそうなのに、断り。

 お父さんの周りがキレイすぎるほど、さっぱりしちゃったのは。

 覇王であるわたしに『剣』として従うため?

 ……本当に?

「ちゃんと、元気に戻って来なくちゃだめなんだから、ね?」

 黙ったお父さんの様子に心配になって言えば。

 お父さんは、深くため息をついた。

「全部判っても、真衣は俺のことを『父親』だって心配してくれるんだな。
 一滴たりとも、血が繋がっていないのに。
 ……真衣の本当の父親を殺したのは……俺なのに」

「……お父さん」

「真衣に真実を知られるのが、怖かった。
 いつも無邪気に笑っている真衣の表情(かお)を曇らせたくなかった。
 嫌われるのがイヤだった。
 ……真衣が俺の罪を許さないなら、俺は死ぬつもりでいた……それは、今だって、そうだ」

 死……!

 なんてこと!

 その重い言葉に打ちのめされる。

 もしかして、お父さんがこんな大きな騒ぎをおこして。

 死してなお、魂を見わけることのできる『覇王の剣』の『性(さが)』が欲しかった、本当の理由って……!

 お父さん、本当に死じゃうつもりだったんだ!

 わたしは、一瞬言葉が出なくなり、次に猛烈にお父さんの胸を両手でぽかぽか叩いていた。

「死んじゃ、だめだからね!?
 勝手に死んじゃ、許さないんだから……!」

 お父さんと一緒な暮らしていた十六年館の記憶が、あふれる。

 あふれて、涙になる。

 わたし、小さい時はカラダが弱くて、幼稚園にも通えない……どころか、ほとんどベッドから出れず、家の外になんて行ったことがなかった。

 きっと、これがわたしがビッグワールドで、隠し育てられてた頃の記憶。

 覇王の力を封じられても、低い濃度のグラウェの中。

 まともに動けないわたしのためにお父さんは絵本を読み。

 ビッグワールドの言葉と日本語の両方を教えてくれたんだ。

 ビッグワールドの言葉も、文字もこっち側の世界にはないものだから。

 子どもが勝手に作って遊ぶ『ウソ言葉』扱いにされ、十年経つうちにすっかり忘れた気になっていたけれど。

 今、使えるってことは、どこかでちゃんと覚えていたんだ。

 ほかにもたくさん。

 お父さんとの楽しい思い出を覚えてる。

 覚えてる。 
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