はだかの王子さま
「う……この年で爺さんかよ」
勘弁してくれ、と前髪をかきあげるお父さんにわたしは、涙をぐいっと拭いて笑った。
「あら。
ビッグワールドのコトなんて、ぜんぜん知らないけれど!
見た目がいくら二十才に見えたって。
こっちの世界じゃ百才越えれば、誰がどーー見たって『お爺さん』じゃない?」
「うう」
星羅は『確かに、ね』って笑い。
お父さんも、気分が晴れたように笑ってたから……大丈夫だよね?
皆でひとしきり笑いあい、この場の雰囲気が和んだ所で、フェアリーランドの大扉が閉まる時間がやって来た。
扉は閉まるけれども、これは終わりじゃない。
新しい物語の、始まりだった。
この騒ぎでも、なんとか倒れずに済んだ、フェアリーランドの時計台が、間もなく十二時を指し示す。
皆が知っているシンデレラの物語で、主人公が、十二時になったらお姫様の魔法が解けて、普通の女の子に戻ったように。
このフェアリーランドでも、十二時を過ぎて、大扉が閉まったら『現実』がやってくる。
今夜は、キングダム・リゾート内で、竜が行進し、蒼い巨人が出現した。
人工島と本土を結ぶ、橋は雷で崩れ。
白薔薇城は巨人に半壊され、地下迷宮の一部は地上に飛び出し、地面はあちこち、えぐれてる。
この状態で、星羅が、見事な手腕で世間をだまして、ビッグワールドの存在を隠し続けられるのか。
それとも。全てが明るみになってしまうのか、それは、判らない。
けれども、わたしも『真実』を知ったからには、ね。
現代に蘇った『覇王』として、なにか星羅の役に立ちたいな、と思った。
年齢も、外見もやっぱり星羅とは差が開きすぎているけど、一つ一つ、出来ることを探して、頑張らなくちゃ、と思った。
だって、これから大忙しなんだもん!
『大扉が閉まるぞ……』
星羅の声が閉門を告げる。
真夜中の十二時きっかりのこの時刻。
フェアリーランドの大扉は、星羅と、お父さんと。ビッグワールド王の血を持って静かに閉まり。
そして、一つの物語が終わりをつげる。
未来に輝く、希望があることを祈りながら。
〈了〉
H25.10.2.17:16
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