夕焼け色に染まる頃
「着替えてこいよ、朔」
はにかむように、優しく微笑む高杉さんは、もういつも通りだ。
「はい。頑張って着替えてきます……!」
「あぁ、あと。お前の役目だがな、小五郎か伊藤に教えて貰え。着付けを手伝うように伝えておく。後は――……特にねぇな」
そう言って立ち上がる。
高杉さんは、桂さん伊藤さんを探しているのか広間中をぐるりと見回した。
あれ、伊藤さんたら私の後ろにいたはずなのに。
いつの間に行っちゃったんだろう。
「はい。高杉さんはどちらに?」
「あぁ……俺はまだ準備せにゃならんモンがあってなぁ。ちょいと席を外す。ほれ、隣の部屋で着替えてこい」
「あ、はい」
壁に掛けてあった着物。
それを背伸びして取って、私は指定された部屋へと歩きだす。
なんだか、心が浮くように軽い。
「朔」
後ろから高杉さんの声が聞こえて、私は足を止めた。
「また、後で」
「――……はい。また、後で!」
自然と溢れてしまった笑顔を、私は自覚した。
でもそれは高杉さんも同じで。
お互いに、距離が縮んだ気がした。
そして、高杉さんの偉大さを、改めて実感した気がする――……それと同時に、自分の小ささ。
だからこそ、自分にしか出来ないこともあるのだ、ということも。