夕焼け色に染まる頃
もしかしたら、あからさまに嫌そうな顔をしていたのかも知れない。
それを見て少し笑う伊藤さんは、もしかして確信犯で私達の話を聞いていたのだろうか。
あまり良い気はしない、けれども……。
「申し訳ないね。気になってしまって」
そう言う伊藤さんに、抗議なんて出来るはずがない。
むしろ、部屋や女中さんの手配をしてくれたのだから感謝するべきなんだ。
ここは一つ、素直に。
「ありがとう、ございます」
礼を言うことにした。
少し前、素直になれと伊藤さんに言われた事、私はちゃんと覚えているんですよ。
「どうしたんだい、いきなり」
「いいえ、部屋や女中さんの手配をしてくださったのはとても助かります」
「……ほぉ。私はてっきり、君達の話を聞いていた事に冷たい目線を浴びせられるものだと思っていたよ」
感心したように、伊藤さんは笑った。
私もつられて笑う。
「まぁ、ね。成長ですよ」
「ふむ、素直になることは実に良い事だ。君はどうもそれが苦手なようだからね」
「…そうですか?」
あまり、意識した事はない。
むしろ、自分をそんな風に感じたことはないし、そう思ったことさえなかった。
けれども、そうだよ、と答えつつ目を細めて笑う伊藤さんはそんな私をも見抜いているようだった。