夕焼け色に染まる頃
「近くにいて、分からないかい?高杉君に、"頂点に立つ者"として足りないものがあることを」
「頂点に、立つ者として……?」
「あぁ。小さく言って見れば、長州藩の頂点。奇兵隊の頂点。そして、大きく言えば――……」
伊藤さんは、そこで一度息を吸った。
小さな間ができて、変に緊張してしまう。
「この国の、頂点だ」
そして私は悟った。
ゆっくりと一回、瞼を開閉する。
「つまり……、政をするにあたって、高杉さんに足りないもの」
「そう。わかったかい?君にとっては至って簡単だ、だってそれは高杉君の良い所でもあるのだからね」
少し口角をあげる伊藤さん。
手を差し伸べられて、私はその手を取った。
「はい」
チラリと高杉さんを見る。
あ、一瞬目があった。
そして、目に見えて機嫌が良くなるのが分かる。
「感情の起伏が激しい……感情豊かすぎるんです」
「悪く言えば、彼は冷静さにかける」
伊藤さんにひかれて向かう先は隣の部屋だ。
そして、伊藤さんが小さく息を吐く声が聞こえた。
「さて、君の役目は私から言わせていただこうかな。高杉君は言えなかったが、私は言えるからね」
「はい」
私は、それが皆の為になるとわかっている。
だから傷付く事はないのに、でも、高杉さんは口にしない。
優しすぎるんだ。