夕焼け色に染まる頃


『名前は名乗らず、ただ自分の位が高いと言うことだけを主張しろ』


高杉さんが初めにいった言葉はこれだ。


キィ、と開く扉。

門番らしき人が高杉さんの存在を確認し、その傍らで豪華な着物を身にまとい馬に跨る私をちらりと見やった。


「高杉殿……今更何をしに参ったと?」


「ほう、門番でも俺の名前は知っているときたか。だかしかし、理由が分からねえと?とんだ馬鹿野郎じゃねぇか」


わざと煽るような事を言うのは、相手の冷静さを削ぎ取って正確な判断が出来なくさせるためだろう。


「減らず口を!」


眉間にシワを寄せた門番。

なんとも、思惑通り……と言うやつだ。


「そこなおなごは何者だ!知らぬ者は通せまい、去れ!」


「……ほう」


高杉さんがそっと私に目配せをした。

その瞬間、私は顎をつんっと上げる。


「わらわを知らぬ……と申すか、このうつけ者めが」


「……な、」


まるで私じゃないみたい。

そんなことを思いながら、ひたすら「位の高い女」を演じる。


「そなたのような無礼者に名乗る名などあるまいて……頭を出せ。長州を統べる者は誰じゃ?」


「しかし……っ」


門番が慌てだした。

にやりと、影で高杉さんが笑ったようだ。

良かった、うまくいってるみたい。


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