夕焼け色に染まる頃


「二度は言うまい。命が惜しくはないか?それとも生首となりたいか。……のぅ、そなたには愛する家族とやらがいるのでは……ない……のか?」


あれ……どうしてだろう。

ツキンと心臓の辺りが痛んだように感じた。


「た、だだいま……!」


焦ったように踵を返した門番は、完全に開けきっていない門をギィ…と開く。

どうやら第一関門は突破したようだった。


「おい、朔」


小さな声で、高杉さんが声をかけてくる。


「大丈夫か」


どうやら、私の小さな異変に気付いていたようだった。

だめだな、この人には叶わない。


「大丈夫、頑張れる。このくらいどってことないないよ」


そう、前を見据えたまま囁けば、それはしっかりと高杉さんに届いてくれていたようだ。


「なら、いい。あんま無理すんなよ」


こくりと頷く。

今、目の前には大きな屋敷が映っていた。

あれが、長州藩。

今から、戦いを仕掛ける所――……。

空はとっくに暗くなっていて、煌々と燃える松明だけが視界を照らしてくれていた。


ゆっくりと馬が前進しだす。


『そうして上手く扉があいたら――……後ろに隠れる伊藤達にでっけえ声で合図を出してやれ!!』


頭の中で高杉さんの声が響いた。


< 114 / 189 >

この作品をシェア

pagetop