夕焼け色に染まる頃
「今日は大切な日なんだ。ぜってぇ失敗はできねぇ」
真っ直ぐに私を見て、そう言う。
「本当に?本当に、大丈夫?」
その目を見ていたら、何だか本当に大丈夫だというような気持ちになってきて。
まるで、さっきの咳はただ喉が詰まっただけだと……自己暗示をかけているようだと思った。
「あたりめぇだ。なんだ、今日の朔はやけに心配性で……大胆だ」
にやりと高杉さんが笑う。
そこではっとした。
私、高杉さんを抱き締めたままだ。
ぱっと離れて、居心地悪さにきょときょとと辺りを見回す。
そんな私の反応を見てか、高杉さんがふと小さく笑った。
あぁ良かった、何時もの高杉さんだ。
「さっきの演技もな。良かった、惚れ惚れしたぜ……見直した」
「……うん」
「いってくる」
「……うん」
正直、不安はある。
当たり前だ、心の奥底でそらしていた、嫌な現実とこんな所で対面しなくちゃいけないのだから。
「そんな不安そうな顔してんじゃねぇよ」
俯いていれば、ぐいと腕を強く引かれる。
あらがうこともなく、私は自然に高杉さんの胸の中へとおさまった。
「いいか。ここを動いちゃいけねぇ。心配なのはわかるが、俺を追って藩邸に来ることも禁止だ」