夕焼け色に染まる頃


わかるな?と、諭すような優しい声で高杉さんは言った。

こくりと頷く。


「いい子だ」


「…も、…子供扱い、しな、いでよ……!」


また、溢れた。

だって、だって。

分からない。

この、心に広がる暖かい感覚も、口に言い表せない不安も、全部ひっくるめてなんと表現していいのか。

分からない、私はこの感情を知らない。


「だから、泣くな。いいか?お前の仕事は後一つ。良く聞け、」


そうして、高杉さんは唇を私の耳に近づけた。

声がダイレクトに伝わる。

涙がぴたりと止まった。


頷いて、顔を上げれば高杉さんと目が合う。


「どうか、お気をつけて」


“死なないで”とは言わない。

“怪我をしないで”とも言わない。

ただ、


「お帰りをお待ちしております」


相手の目を見て、そう伝えた。


「おぅ」


おでこに。

ちゅ、と小さく口付けをして、高杉さんは踵を返した。

走り去る背中を見送りながら、私は紅潮した頬をそのままに額に手を当てる。


『俺達が帰ってきたらな、笑顔で「おかえり」と言ってくれ』


私は、あなたの帰る場所となりたいです。

きゅ、と胸の前で手を握りしめ、夜風に髪の毛を晒した。


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