夕焼け色に染まる頃


「――……何故か?分からないのですか、貴女」


馬鹿ですね。

そんな言葉が口をついて出た。


「なん、だと?」


相手は、怒りに震え私を見る。

腕を握る手が、ギリッときつくなった。


「ふふ。だから、あなたは門番止まりなのですよ」


今、私に出来ることを、脳みそをフル回転して考えた。

結果、こういった相手を挑発する事となる。


何故なら、今この状態で私がしなければならない事は「真実がバレてしまったこの人を、あの藩邸に戻し事実を伝えられてしまう事を防ぐ」と言うことだからだ。

そうするためには、この人をこの場に引き止めなくてはならない。


そこで思い出したのは、さっきこの門番を欺いた高杉さんの策略だった。

高杉さんはまず、相手を煽るような言葉を紡ぎ、冷静な判断ができぬような状態にした。

……それなら、私にも出来るはずだ。


「貴様といい……高杉といい……」


ほら、いたって簡単だった。

だってこの人、さっきも思ったけど凄い頭に血が上りやすい人みたいなんだもん。


ちらりと頭を掠めたのは、こっちの世界に来てすぐ、高杉さんに会って連れていかれた功山寺で初めて会った門番さん。

……とても同じ職につく人とは思えなかった。


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