夕焼け色に染まる頃
高杉さんの殺気に腰が抜けたのか、立ち上がって逃げる気配もなければしかして答える気配もない。
イライラしたように舌打ちをした高杉さんは、ずいっと刀を相手の首につけた。
「俺の。――……俺の女に手ェ出したらブッ殺す」
とても、冷たい声だった。
とても。
なのに、私の心はとても暖かくなって、鼓動はとても速くなっていた。
あぁ私、このまま死んじゃうんじゃないかな。
幸せすぎて死にそう、ってこう言うことなんだと初めて知った。
こんな場面で、なんて不謹慎なんだろう。
けれども、そう思わざるを得なかった。
ヒュ、と刃が空を斬る音が聞こえ、それは鞘に納められた。
「この場から去れ。二度と俺らの前に現れるんじゃねぇ、次こそは例えこいつの前だったとしてもてめぇを切り刻むからな」
「ひ、ひぃっ!」
情けない声をあげ、一目散に逃げ出す門番の背中を静かに見つめる高杉さんが、
「武士が的に背ぇ向けるたぁ情けねぇこったなぁ、」
と呟くのが聞こえた。
とてもホッとした。助かった、って。
けれども、これで終わりじゃなかった。
これで安心して気を抜いたのが、間違いだったんだ。
「高杉さ、」
ゆっくり、立ち上がろうとしたのと、後方で微かな木の葉の擦れる音がしたのと、こちらを向いた高杉さんが目を見開いてこちらに駆け寄ってきたのは同時だったと思う。