夕焼け色に染まる頃
「何でだ?」
わかってる癖に聞き返してくる高杉さんの表情は、それ以上にないくらい優しいもので。
私の顔に影を落とすように覗き込んできて、もう、視線を外すことなんて出来ない。
だから、嘘をつくことだって、或いは白を切りとおすことも出来ないんだ。
ずるいなあ、高杉さん。
「………高杉さんが、私の心配をしてくれて、です」
「そりゃあ心配だろうよ。そうさなぁ、お前は初めっからごくごく当たり前の事をすげぇ幸せそうにしてたっけなあ………」
高杉さんの目が細まる。
「私は、そういった当たり前のことが当たり前にできなかったんです」
細まって細まって、一度閉じた。
そうして、スと体をひけば私の顔に影を落とすものがなくなる。
一瞬、いきなり開けて明るくなった視界が眩しくて目を閉じれば、その間に額にあった手は下にずれて私の目を覆った。
「………まだ、寝とけ」
「高杉、さん」
「話は、お前が回復しきってからだ。逢い引きといこうぜ、楽しみにしててくんな」
「え、」
逢い引きってどういうこと、って聞く間もなく。
―――――――……………唇に、温もりが触れた。