夕焼け色に染まる頃
04
そっと唇を離し、小さく息を吐いた高杉は朔の顔をじいと見つめた。
その表情は、悲しげに歪められる。
「何があった」
問い掛けに答える声はなく、空気に溶けて消えた。
「お前は一人で何を抱えていやがる」
朔の寝顔が、少しばかり歪む。
先程まで、とても気持ち良さそうに寝ていた顔がだ。
「おい、朔―――――…………」
いつからだろうか、ふとした瞬間に線を引き距離を置く朔に気づき始めたのは。
一度気付くとそれを見付けるのは容易く、その度に「どうしたんだ」と聞くことのできない自分に歯噛みする。
本当に、本当にいつからだったのだろうか。
朔のことを、もっと知りたいと思ったのは。
「高杉君?」
すっと襖の開く音が聞こえ、同時に部屋の中へと足を踏み入れたのは伊藤だ。
「まだ冷えるだろう。君だってもう万全だとは言えないんだ、早く部屋に――……嗚呼。そんな顔をしないでくれよ」
「……るせぇ。てめぇの体のことだ、てめぇがイッチバンわかってらぁ」
「なら、」
首を振った。
伊藤は口を噤み、こちらを見る。
「―――――…………あと少しだけだ」
その言葉の意味はなんなのだろうか。
幾重にも張られた高杉の言葉を伊藤が全て理解できる筈もなく、ひとつゆっくりと頷いて見せてから襖を閉じる。
"あと少し"だけ、か。