夕焼け色に染まる頃
高杉さんが開けっ放しにしていった襖の向こう側には、広々とした庭が広がっていた。
そう言えば、ここは高杉さんがクーデターを起こしたことによって奪い返した長州藩邸、ということで良いのだろうか。
頭の中で知りうる限りの史実を探って見るけれども、それが成功したか否かなんて覚えていなかった。
とはいえ、こうして平穏無事な雰囲気を見ると成功したのだろう。
廊下からだって、足音ひとつしない。
静かなものだ。
ゆっくりと瞼を閉じて耳を澄ましても、……うん、なにも聞こえない。
それを確認してから、私は少しばかり着物の襟を緩めた。
此方に来てすぐ、高杉さんが私に買ってくれた着物だ。
今となっては自分でちゃんと着付けられるし、着こなせているつもり。
「……あー…やっぱり、酷くなってる。どこかで打ち付けちゃったかなあ」
なんてボヤきながら視線を這わせるのは自身の体、痣だらけのそれだ。
あの時、もみくちゃになったときに痣を打ったらしい。
青く、酷くなってるところがいくつか見受けられた。
つい、小さくため息をついてしまう。
それに重ねて、
「……何がひどくなってんだ」
つい先ほど、ここからあわただしく去っていったはずの人の声が聞こえたものだから、私はひどく驚いて肩を跳ねさせてしまった。
そのせいで、傷が痛む。