夕焼け色に染まる頃
「っと、ンな驚くなや。言い忘れた事があると思い出して戻ってきたらちと遭遇しちまっただけだ。お前さんが感慨深そうにその、」
さっと空いている障子の方に視線を向けた。
確かに、そこには先ほど見た時にはなかったはずの人影がある。
高杉さんのものだ。
「――……痣ぁ見てんのをな」
唇を噛んで、緩める為に握っていた襟をキュと握る。
いけない、シワがついてしまうのに。
でも、力んでしまうのを止められない。
「見てない、です」
出た声は震えた。
「嘘をつくな。その痣はなんだ、教えろ」
「なんで命令口調……」
「いいから」
「いや、です。言いません」
いや。
いやだ、こんな汚い跡、高杉さんに見られたくなかった。
高杉さんにだけは、高杉さんだから、高杉さん、には、……!
「朔」
「い、や、で……す……!」
いくら動けないとはいえ、いくら人がいないとはいえ、いくら気配を感じなかったとはいえ、障子を開けたまま襟を緩めたのは私の落ち度だ。
見られたくないのならば、こんなところで確認するべきじゃなかった。
「朔」
障子の向こう側から動こうとしない高杉さんの影は、その場に腰を降ろした。
サァッと庭から風が入ってきて、頬を撫でる。