夕焼け色に染まる頃


ぐいっと強い力に腕を捕まれ、ピリリと背中が傷んで。

気付けば私は、高杉さんの腕の中。


あまりに急な出来事だったが為に私の頭は現状を理解しきれずに、ただぱちりぱちりと睫毛を震わせた。


「た、か、すぎ、さん……」


やっとこさ出てきた声は途切れ途切れにその人の名を呼ぶもの。


体勢を崩し、不安定な中で両手はどこについたものかと宙をさ迷い――……右手は、高杉さんの左手に捕まえられた。


ぎゅうと握られたそれ。

指の一本一本が絡められて、無骨な高杉さんの手の温もりがじんわりと伝わってくる。


それだけで泣けてしまいそうなのに、私を抱き締める腕に力が入ってしまえば。

涙を堪えるのに必死になって、反対の手はぎゅっと高杉さんの着物をすがるように抱き締めた。


「バカたれが」


低い、高杉さんの声が耳元で聞こえる。


「頼れ」


短い、その言葉は。


「すがれ」


ただでさえ抽象的でわかりづらいというのに。


「前を見ろ」


私の心に浸透する。


「お前の前にいるのは誰だと思ってやがる」


やめて、っていつかの私が悲鳴をあげる。

これ以上見ないで、――……嫌われたくない、って。


でも。

私の目の前にいるのは、高杉さんだ。


「……沢山、沢山あるんです」


傷は。

でも、生きようとした証でもある。

どうか見て、と。

高杉さんの着物にすがったまま、襟を緩めた。



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