夕焼け色に染まる頃


ぽすんと私の頭に手をのせた高杉さんは、けらりと笑ってからまた空を見上げる。


つられるようにしてそちらを見れば、果てしなく続く晴天が有った。


「なぁ、日本はどこまで続いていて、どこからが海なんだろうなぁ?」


「え、この時代にはまだ地図がなかったんですっけ?」


伊能忠敬の書いた日本地図はもう出来ている時代だと思っていたのだけれども。

そもそも、正確でなくてもなんとなし地図と呼べるものくらいなかったのだろうか。


あまり歴史に詳しいとは言えない私は、ただ次の高杉さんの言葉をまつ。


と、クスリと小さく笑った声が聞こえた。


「違ぇよ、そういうこっちゃねぇんだ。世界は広いだろ」


「……?はい」


「日本は、小せぇ」


いやにきっぱりと、はっきりと、それでいて不安に満ちたように聞こえる言葉だった。


「小せぇ癖に鎖国なんざして、文化がどうだとほざいて外国の文化を取り入れようとせん。――……気持ちはわかるがなぁ……」


怖ぇもんなあ。

そう、小さく呟いたのが耳に入る。


高杉さんは確か、尊皇攘夷の意思を持つ人。

すなわち、天皇を尊び外国人は排除する。


そういう考えを持つ人であるはずだ。

だというのにこんなことを言うのは一体どういう意図があっての事だろうかと、息を飲む。


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