夕焼け色に染まる頃
「大丈夫、ですけど。いや、私よりも高杉さんは大丈夫なんですか?」
ふっと脳裏に過るのは、苦しそうに咳を繰り返していた高杉さん。
そして、現代にいる頃にどこかで聞いた高杉さんの――……。
「何がだ。変なこと気にしてるんじゃねぇよ、バカが。行くぞ、このまま中にばっか居ても逆に体に悪いだろうが。たまには外に出て体くらい動かすべきだ」
そんな風に言われてしまっては、まさか嫌だなんて言えるはずもなくて。
むしろ嬉しい、だなんて思うだけ。
「高杉さん、私また簪を見に行きたいです」
「おう」
「あと、お着物――……というか、帯留めが欲しくて」
「うし、行くか」
あそこに行きたい、ここに行きたい。
それから、あの雲の形は何に見えるだとか、甘味を食べにいきたいだとか。
そんな他愛ない話をしながら、道を歩くこと数十分。
直ぐに見えてきた町はとても賑わっていて、まさか数週間前にはこの近くにある藩邸で争い事が起きていただなんて思えやしない。
穏やかであることはとてもいいことだと、つくづく思う。
「こんにちは、高杉さん。どうですかね、このきゅうり。うまいっすよ!」
「ん?ぁあ……確かに、いい色してんじゃねぇか」