夕焼け色に染まる頃


道の途中、屋台を出しているおじさんにこうして呼び止められることが度々ある。


誰しも「高杉さん」と名を呼び引き留めるものだから、やはり高杉さんはこの辺りでは有名人なんだなあなんて思っていれば。


「おい、朔。今日の夕飯、きゅうりの漬物と豆腐が食えるぞ」


そんな風に話をふられてハッと意識を戻す。


「忘れんなよ?今買ったら持ち歩くのが大変だからな、帰りにもう一度寄る」


「はい、了解です。あと、白菜も買っておいたらどうですか?お漬物、きゅうりだけじゃ寂しいかなって」


「おっ、お嬢ちゃんいいこと言うねぇ。ほら高杉さん、ここはきゅうりと一緒に白菜も!」


パチンと手を打ってから高杉さんに懇願するように揉み手をし始める屋台のおじさん。

対する高杉さんは、何故か渋っているようで。


お金がなぁ、だとかなんとか。

あ、って思う。


「だったら高杉さん、まけときますから!ほらこの通り!」


その言葉を聞くや否や、高杉さんはニヤリと笑みを浮かべて。


「うし、買った。きゅうりと白菜、あと大根も買っておこうか」


やっぱり、高杉さんたら値切ったんだ。

まったく、どこぞの主婦でもあるまいし……なんて、子供のように喜ぶ高杉さんが主婦だなんて程遠いのだけれども。


< 164 / 189 >

この作品をシェア

pagetop