夕焼け色に染まる頃
「それじゃあ、私は失礼します!高杉さん、伊藤さん、健闘をお祈りしております!」
パッと踵を返し、あっと驚く高杉さんと伊藤さんを尻目に私は廊下をだだだっと走り抜けては薩摩藩邸の外に出た。
……あぁ、なんだかやっと外の空気を吸えた気がする。
なんて言ったって、薩摩藩邸のだと知らされてから息苦しくて仕方が無い。
高杉さんや伊藤さんの所属する長州藩の、いわば敵と言っても過言ではない—————……今は、だけれども。
どうしてもそう考えてしまって、ぐるぐると頭の中を余計な思考が張り巡らされては息をすることを忘れてしまう。
と、そこまで考えて私は気付いた。
「藩邸を出てきたはいいけど、京の街なんて知らない……!」
ましてやお金も持っていなければ、どこか近くの甘味処に入ってお茶とお団子でも、とはいかない。
どうしようかと途方に暮れて、うぅと唸っていた、その時だった。
ドン、と後ろから強い衝撃を感じて、前に2歩くらいよろけてしまう。
「いっ……!?何、いった……」
後ろを振り返れば、呻き声も消し飛んだ。
そこには、明らかに感じのよろしくない浪士様が二人。
ここからどんな罵声が浴びせられるかなど、火を見るよりも明らかに分かった。