夕焼け色に染まる頃
「いってぇなぁ!おい嬢ちゃんよぉ、武士である俺様の肩が折れてたらどうしてくれんだ!?」
……まさか、ここまで現代と変わらないレベルのいちゃもんをこの幕末でする人がいるのは思わなかったけれども。
すこぅしだけ唖然としてしまう間があるのは許して欲しい、武士とはなんぞやと一瞬考えてしまった私を誰が責めることができようか。
されどジリジリと寄ってくる浪士からこちらもジリジリと逃げて行くうち、とん、と背中が壁に着いた時。
終わった、やばいと思った。
フラッシュバックするのは背中を斬られた時のこと、あの時の痛みは忘れられる訳が無い。
自然と視線は浪士の腰にある刀へと向く。
「おーい、もう逃げられねーぞ?お医者さんに行くお金でも払ってくれればそれで良いんだがぁ。……それができねぇなら、これ、だぜ?」
そうして浪士がちらつかせるのはやはり刀だ。
これだから、なんて思っては顔が歪む。
さてどうしようか、後ろには壁で浪士は二人、私は持ち金無し—————………
「はい、そこまでですよ〜?」
「ひっ!?お、お前その羽織り……!?」
唐突に聞こえた、優しげな声。
どうやら浪士の後ろから声がかかっているらしい、位置的に私にはその人物が誰だかわからない。
しかし振り返った浪士が今までの威勢はどこにいったのやらアタフタと慌て出し、パッと刀から手を退けた事にしめた、と思う。
「あ、分かりますか?なら、そのまま退いて欲しいんですが—————……この場で僕に相手になって欲しいと言うのならば勿論それはそれでお相手しますが、どうします?」
その言葉に威圧は感じられなかった。
「ひっ!か、勘弁してくれっ!」
だというのに、浪士はあっけなく退いてくれて。
やっとこさ私は命の恩人と対面できた訳ではあるが、………つい、私も言葉を無くしてしまった。