夕焼け色に染まる頃
「まったく、意気地がないといいますか、下手れているといいますか……。お嬢さん、お怪我はありませんか?」
逃げて行った浪士の背中を暫く見送った後に、私は気遣いの言葉をかけてくれていることはよぉっくわかったのだけれども。
その男の人が着ている羽織りから目が離せなくて。
「?あ、あの。もしもーし、聞こえてますかー?……困ったな。怯えちゃったんでしょうか……」
「浅葱色の羽織り……?」
「え?」
「あっ…!」
ついつい、声に出てしまって口元を隠した。
キョトンとこちらを見てくる人が着ている羽織は、浅葱色のダンダラ模様。
その有名な羽織りを、誰が着ているのかくらい私だって知っている。
「ご存知でしたか。なら、挨拶が楽ですね。僕は新撰組一番隊隊長、沖田総司です。改めて聞かせてもらいますね、お嬢さん。お怪我はありませんか?」
「あ、ありません……!大丈夫です、助けていただいてありがとうございました!助かりました!」
その爽やかな笑顔、優しくて丁寧な口調。
私の想像する沖田総司よりも、よっぽど優しくて。
まさかこの人が新撰組一番の剣術の使い手だなんて信じられないくらい。
「それは良かったです。京の治安はここ最近で一気に悪くなっていますので、どうか起きをつけて」
「………はい」
チラリと、頭の端に高杉さん達の姿が浮かんできては、つい返事をするのを遅らせた。