夕焼け色に染まる頃
「それでは、僕は失礼しますが……もし、何かお困りでしたら、そこの角を曲がって真っ直ぐ歩いた所に新撰組の屯所があります。沖田の知り合いだと言えば通して貰えると思いますので、よろしければどうぞ」
にこやかにそう告げて踵を返そうとする沖田さんに、私はほぼ無意識に手を伸ばしていた。
はっしと沖田さんの羽織りの裾を握っては、先に進まんとする沖田さんの邪魔をする。
「おや……?なんでしょう」
「え、や、あの……なんと、いうか」
「……?」
「いえ、あの、なんでも……ないと言えば、ないんですが……っ!」
なんだろう。
自分でも理由はわからなくて、言葉に詰まってしまう。
沖田さんと目を合わせることも出来ず、かと言って言葉にすることもできない。
オタオタと足元に視線を落としては、わけのわからない、それでいて意味もない言葉を発するこも数秒—————……。
そんな私を見て、沖田さんが特有の優しさを含めてふっ…っと静かに笑い声を漏らしたのが微かに聞こえた。
「見たところ、京の街を余り知らないようで。どうです、よろしければ少しご一緒でも」
僕で良ければ案内しますよと、言ってくれた沖田さんのなんて優しいことか……!
感激してしまって声が出ず、コクコクとうなづいた私はどんなに必死で輝いた表情をしていたんだろうか、沖田さんにまたしても笑われてしまった。
ともあれ、沖田さんは一度屯所に戻って着替えてしまいたいと言うことで、二人で新撰組の屯所へと歩き始めたのである。