夕焼け色に染まる頃


「しょうがねぇなぁ……そんな強く扇子を投げたつもりはなかったんだが……一応年頃の娘、……だしなぁ……?」


そんなことを私に聞こえるように呟きながら、高杉さんはしゃがみ込んできた。


「お前………」


顔を近づけてきて、それでも私は顔をあげられない。
てかむしろあげられない。

そう言えば、この門を守っていた侍は二人いたはずじゃない…!?
なんで何も言わないの!

なんて耳を済まして見れば微かに笑い声が聞こえた。


「なっ……!」


それに言い返そうと顔を上げて振り替えれば。


振り、替、え、れ……、
……なかった。

顔を上げた瞬間にガシッと高杉さんに頭を押さえられて、面と向かわされる。

ひぃ、近い。


「お前……、」


ひく、と怒りで高杉さんの唇の端がひきつった。


「馬、鹿、な、わ、け?」


ひとつの音事に息を吸って、あらやだなんて聞き取り安く言ってくれるのかしら……。


「いやあのそのえと、だだだだって、」


「言い訳?」


「いっ、いやいやいや、そんな恐れ多い……!」


「俺は言ったよな、羽織を脱ぐなと。……言った、よ、な!」


「はぃいっ、言いました!」


ぐりぐりぐりぐり……。
高杉さんが私の頭を挟む手に力を入れる。


「いだだだだだだ……!」


< 22 / 189 >

この作品をシェア

pagetop