夕焼け色に染まる頃


「お前は、帰りたくないのか」


「……え?」


何も考えてなかった。

ただただ夕日に見とれていて、何も考えていなかった私は、高杉さんのこの質問にすぐに答える事ができなかったんだ。


「お前の口から、一度も帰りたいという言葉を聞いてねぇんだ。それって、おかしくねぇかい?」


……確かに、言ってない。

ううん、言ってない、だけじゃない。

一度も、思ってさえいないんだ。


「お前はこっちの、この時代の人間と違うんだろ?なのに何故そんなに割りきれてんだ。諦めてんのか?」


何故?そんなの、私が聞きたい。

でも、

「……違う……」

その言葉だけが無意識に零れた。


「じゃあ、帰りたく、ないのか」


「……帰りたくない……?」


「あぁ」


短くそうとだけ答えて、高杉さんは夕日へと視線を移してしまった。

それの横顔を見つめながら、私の頭の中では必死に整理をしようと脳が回転している。

……高杉さんの言う通りなのかもしれない。

未来、私のいた世界とは全然違うこの世界。

たった少しの間いただけなのに、それだけはいやと言うほど理解したつもりだ。

だと言うのに、やっとこさ原点に来ることが出来れば――……帰りたい、未来に戻りたい、

なんて発想は少しもなかった。


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