夕焼け色に染まる頃
「高杉さん……、高杉さん、……」
つい、手を伸ばして。
必死につかんだのは、高杉さんの着物の袖だった。
「違う、んです」
何が違うんだろう、私は一体高杉さんに何が言いたいんだろう。
「私には、あの世界に戻る理由がなくて」
ただ、そんな顔をして欲しくないと思った。
「私には、あの世界に戻ったって待っていてくれる人がいないんです。」
私なんかの何気ない一言で、高杉さんがそんな顔をする必要なんてない。
微塵も、ない。
「あの世界で私を心配していてくれる人が、いないんです」
それに私、貴方にそんな顔をさせるつもりで言ったんじゃないんです。
ただ、ただ。
「そんな私には、あの世界は灰色にしか見えなくて」
高杉さんと見た綺麗な夕焼けに、驚いたんですよ。
こっちにきて初めて、世界の色が見えた気がした。
夕焼け色に染まった景色が、とても綺麗だと感じた。
現代では灰色にくすんでしか見えなかったのに、とても綺麗、だったんです。
「現代よりも、――……こっちのほうが、……」
「もういい」
気づけば、涙が流れて居たようだった。
一瞬だけ見えた悲痛そうな高杉さんの顔。
でもそれはすぐに隠されて、次の瞬間には私は高杉さんの腕の中にいた。