夕焼け色に染まる頃
そう良いながら顎をなぞる伊藤さんはニッと笑う。
「それに、気性は確かに激しいが何かと女性に対しては繊細でねぇ。きっと大丈夫だとは思うが……」
不意に、近付いてくる伊藤さんの顔。
教科書に写っている顔よりもいくらか若くて、なにより違うのは色つきだってこと。
「……なにか困った事があったら私に気軽に相談するといい。私でできることなら致そう」
いくらか声の音量を下げて、耳元で囁く伊藤さん。
それについ、私はクスリと笑ってしまった。
「はい。ありがとうございます、伊藤さん」
「……おや、私の名前はもうご存知のようだ。それでは是非よろしく頼むよ、娘さん」
ニッコリと、とても柔和に微笑む伊藤さん。
その笑顔に私の緊張もいくらか溶けてきたようだった。
「こら。こらこらこら。なぁーにを二人でコソコソしてやがんでぇ?……俺も混ぜろ」
「はは、それは出来ない相談だ、高杉さん。ほれ、今日は大事な話し合いだろう?桂くん達がお待ちかねだよ」
伊藤さんに促されて桂さんと石川さんを見れば。
二人とも揃って、なんとも言えぬ顔をしていて、ついつい笑ってしまう。
とてもこれから、伊藤さんの言う"大事な話し合い"が始まるとは思えない、そんな雰囲気。