夕焼け色に染まる頃
「お前。名はなんという?……いや、今重要なのはそれじゃあねぇな」
呟くように、ぼそぼそと声を漏らす高杉さんは至って冷静なようで。
反対に、私はドキドキと心臓が鳴って倒れそう、で。
それを察したのか否か、高杉さんは体勢を変えてさりげなく私を支えるように重心をずらす。
「……あの」
以降、何も喋らずに思考を巡らせている様子。
その沈黙に耐えかねてちらりと高杉さんを見ればつり上がる口角が見えた。
「……おもしれぇ」
至極小さな小さな声で、そんな言葉が聞こえた。
「なぁ、女。お前ちょいと俺に付き合え。強制だ、文句は言わせねぇ」
「え……?」
そうして、私の腰に回した腕をほどいた高杉さんは手を引いて歩き出す。
その勢いがあまりに強くて、力が抜けてカクンッとなる暇も与えてくれなかった。
何も知らず、ただ高杉さんに引かれて足が動く。
その間にも、私のちっぽけな脳は現状をまとめる事なんて到底出来ずに、ただ理解出来るのは高杉さんが嬉しそうだ…というだけ。
無論、口を開いて高杉さんに何かを聞く事なんて出来ずにその背中をじっと凝視してた。
「穴が空く」
けれども、そんな張り詰めた私の緊張状態をほぐしてくれたのは知ってか知らずか高杉さんだった。