夕焼け色に染まる頃
「はは。君は実に律儀な子だ」
――……その心、忘れないでくれたまえ。
そう言って、伊藤さんは立ち去ったようだった。
足音が遠ざかるとともに私の目を隠す高杉さんの手の力は緩まっていって、聞こえなくなった頃にはゆるりと視界が開けた。
少しずつ入ってきた光であっても眩しくて、目を細める。
やっと見えてきた視界には高杉さんが映っていなくて、私は焦って後ろを振り向いた。
「ん、どうした?」
そこには至極優しげに微笑む高杉さんがいた。
「んーん、……なんでもないんです。それより、桂さんは?抑える事ができたんですか?」
「あぁ……」
クスクスと、笑うように問いかければ高杉さんは一瞬遠い目をしたようだった。
「当たり前だろ。わざわざ挙兵前に腹壊させる訳あるめぇ……士気が落ちちまわぁ」
「そんなに、桂さんの料理はまずいんですが」
「言ったろ、甘い味噌汁。あんなんまだ可愛いくらいなんだぜ、実際のあいつの料理は殺人級だ」
「うわ……」
終始遠い目で語った高杉さんは、どうやら桂さんの料理で死ぬ思いをしたらしかった。
気を取り直したように息を吸えば、高杉さんはストンと縁側に腰を掛ける。
流れで私も隣に腰をおろせば、ゆるうりと穏やかな空間が出来上がるのがわかった。